経済産業省の安井正也官房審議官が経産省資源エネルギー庁の原子力政策課長を務めていた2004年4月、使用済み核燃料を再処理せずそのまま捨てる「直接処分」のコスト試算の隠蔽を部下に指示していたことが、関係者の証言やメモで明らかになった。 全量再処理が国策なのに、明らかになれば、直接処分が再処理より安価であることが判明して、政策変更を求める動きが加速することを回避する目的だと思われる。 指示の2カ月後、青森県六ケ所村の再処理工場稼働で生じる費用約19兆円を国民が負担する制度がとりまとめられており、データ隠しが重要な決定につながった疑いが浮上している。 再処理を巡っては、2002年以降、東京電力と経産省の首脳らが再処理事業からの撤退を模索していたことが判明しており、安井氏は京大工学部原子核工学科卒の技官で長年原子力推進政策に関わってきており、いわゆる「原子力ムラ」が撤退への動きを封じた形となっている。 試算は通産省(当時)の委託事業で、財団法人「原子力環境整備センター」(現原子力環境整備促進・資金管理センター)が1998年、直接処分のコストを4兆2000億〜6兆1000億円と算定したもので、直接処分なら再処理(約19兆円)の4分の1〜3分の1以下ですむことを意味している。 新聞社が入手したメモは、経産省関係者が2004年4月20日付で作成したもので、「部下(メモは実名)が昨日、安井課長に(試算の存在を)伝えたところ『世の中の目に触れさせないように』との厳命が下った」と記載されており、当時の部下は取材に対して、安井氏から「試算を見えないところに置いておいてくれ」と指示されたことを認めて、「目立たないよう他の資料も山積みにしていた、いすの後ろの床の上に置いた」と証言していることが判明している。 経産相の諮問機関「総合資源エネルギー調査会・電気事業分科会」では同5月、複数の委員から直接処分のコスト計算を求める意見が出ており、原子力政策課は分科会の担当課だったが委員らに試算の存在を伝えず、分科会は同6月、約19兆円を産業用、家庭用の電気料金に上乗せする新制度の導入案をまとめて、これが「国内全量再処理」を堅持する現行の原子力政策大綱につながっている。 安井氏は取材に対し、「(部下が試算を持ってきたことは)あったかもしれないが(隠蔽指示は)記憶にない」と惚けている。
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