熊本市の係長ら２人が、部下の２０代男性に飲食代１００万円以上をおごらせるなどのパワーハラスメント（パワハラ）行為を繰り返したとして先月末、停職６カ月の懲戒処分を受け、あまりに度が過ぎる行為に、市には「処分は甘すぎる」「懲戒免職にすべきだ」などの抗議や苦情が約１７００件寄せられる事件があった。 市は若手職員対象のパワハラに関する緊急アンケートをするなど対策に乗り出したが、再発防止ができるか疑問視されている。 市によると、パワハラ行為があったのは男性が農水商工局の出先機関に新人として配属された直後の２００９年６月〜昨年１１月で、上司の係長（４９）と技術参事（４７）が、すしや焼き肉などの飲食代として総額１００万円以上をおごらせたほか、男性を床に正座させて長時間説教したり、男性が作成した文書を承認しないなどの行為を頻繁に繰り返していた。 男性が外勤で車を運転中に道を間違えると後部座席から頭を叩いたり、「失敗した罰」としてイカの天ぷらを買わせたりもしており、上司２人は市の調査に「新人教育のつもりだった」と釈明したが、行為は次第にエスカレートしていった。 こんな行為が２年半も続いたのかについて、関係者は、男性が「まじめで素直な性格」を理由にあげている。 同市には職員向け相談窓口があるが、心配をかけまいと誰にも相談せず、やつれた様子を不審に思った家族が問いただすと、パワハラの実態を初めて明かしたという。 また、現場が出先機関で本庁幹部らの目が届きにくく、被害男性と上司の３人はチームで外回りをすることが多かったという事情も指摘されている。 上司２人は職場で正座させた男性に「怪しまれるから笑え」と隠蔽工作をしていたことも発覚させにくくしていたらしい。 男性が笑顔で床に正座させられているのを目撃した職員の１人は市の調査に「（３人は）仲がいいと思っていた」をしており、所属長は上司２人を「指導熱心だ」ととらえたという。 田畑公人・人事課長は「周りの職員はパワハラ行為を見ていたのに、それをパワハラと感じなかった。『市役所の常識は世間の非常識』と言われても仕方がない」と述べている。 被害男性の心の傷は大きく、１１月初旬から今月初旬まで病気休暇に追い込まれており、上司２人は支払わせた分の返還を申し出たが、「もう接触したくない」と受け取りも拒否しているという。 市は、「本庁幹部による出先の視察回数を増やす」、「上司２人が職場復帰後も所属長が監視・指導する」などの対策を決定し、上司２人が「自分たちも厳しい教育を受けた」と弁明したため、採用５年以内の職員９２８人を対象に、パワハラやセクハラに遭った経験を問う緊急アンケートも始めたが、田畑人事課長は「パワハラには明確な定義や法的規制がなく、判断が難しい」と、今後の対応や再発防止の困難さを打ち明ける。 日本労働弁護団常任幹事の棗（なつめ）一郎弁護士は「全国の労働局や日本労働弁護団に寄せられる労働相談でパワハラの相談は２〜３番目に多い。国はガイドラインを作り早急に立法化すべきだ」と指摘している。
↧